久留米大学医学部脳神経外科の専門分野

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専門分野

  • 脳血管障害
  • 血管内治療
  • 中枢神経腫瘍
  • 間脳下垂体疾患
  • 頭蓋底手術
  • 脊椎脊髄疾
  • 神経外傷
  • 小児神経疾患
  • 機能的疾患
  • 神経内視境

脳血管障害

当施設では、脳血管障害に対して血管内治療チームと脳卒中の外科チームでひとつとなり、24時間対応可能な体制を整え、患者さんの治療に取り組んでいます。急性期治療を行いつつ、早期に急性期リハビリテーションを行い、回復期リハビリテーションへの速やかな移行のため、地域医療と連携して取り組んでいます。

虚血性脳血管障害

急性期虚血性脳血管障害

発症後4.5時間以内では、tPA静注療法に加え、血管内治療(Merci、Penumbraなど)による急性期血行再建術を行っています。また、非適応症例においては、MRIによりDiffusion-Perfusion Mismatch症例などに対しては積極的に急性期頭蓋内外血行再建術を行っていく方針としています。

慢性期虚血性脳血管障害

JET studyのCriteriaを満たす症例では、積極的に頭蓋外内血行再建術を行っております。

頸部内頸動脈狭窄疾患

NASCET、ACAS、ECST、SAPPHIREなど大規模試験をもとに、CEA、CAS適応症例に対しては積極的に治療を行っております。当施設では、血管内治療も積極的に行っており、充分なインフォームドコンセントを行い、できるだけ患者さんのニーズにお応えする方針としております。

出血性脳血管障害

くも膜下出血

くも膜下出血に対しては、当施設は血管内治療を1998年より第一選択として行っております。また、血管内治療困難例や、脳出血合併例に対しても、開頭クリッピング術を速やかに行うことが可能です。巨大動脈瘤や治療困難な動脈瘤に対しても、バイパス(high flow bypassや深部bypassなど)を駆使し、開頭ならびに血管内治療チームによる複合治療も行っております。

脳内出血

出血量が多く生命の危険がある場合などは、緊急開頭血腫除去術が可能な体制を整えております。また、近年内視鏡技術の発達もあり、血腫除去も低侵襲に施行可能となってきました。

その他

当施設では、術中、周術期のモニタリングにも力を入れており、患者さんに対して安全性の高い医療の提供を心がけております。

血管内治療

脳血管内治療は脳神経外科領域のsubspecialtyの一つとして確立されている部門であり、主に脳血管障害に対してカテーテルによる治療を行っています。

対象疾患は出血性脳血管障害では脳動脈瘤、脳動静脈奇形、硬膜動静脈奇形など、虚血性脳血管障害では頸部および頭蓋内脳動脈狭窄症、脳塞栓症などであり、治療成績も良好です。本邦ではこの分野に関しては専門医制度(日本脳神経血管内治療学会認定専門医)が確立されており、久留米大学病院は専門医取得に必要な日本脳神経血管内治療学会認定研修施設です。

現在、大学病院で治療を担当しているのは指導医1名、専門医2名の3名で、また教育関連病院に指導医1名(済生会二日市病院 )、専門医3名(済生会福岡総合病院、大牟田市立病院、聖マリア病院)が出向中です。以上のスタッフで大学病院と教育関連病院での脳血管治療をカバーし、症例数は大学病院では年間130-150例、大学病院在籍のスタッフが関連病院に出向して行う手術は70-100例なので、大学病院に在籍しているスタッフによる年間症例数としては200-250例となります。血管内治療専門医取得に必要な経験症例数は100例であることから、他の条件(脳神経血管内治療学会入会4年以上、脳神経外科学会専門医取得者など)を満たしている場合は1年の研修で有資格者となることが充分可能な状況です。

本治療に使用する血管撮影装置および手術器具の開発は日進月歩であり、今後手術適応となる疾患数、症例数とも増加していくと考えられるため、特に脳血管障害に興味を持つ脳神経外科医にとっては取得しておく価値のある資格です。

中枢神経腫瘍

当科では、術中ナビゲーション、神経モニタリング、神経内視鏡、覚醒下手術、生体腫瘍染色など、さまざまな手法を用いながら最大限の腫瘍摘出を行っています。また、必要に応じて腫瘍の遺伝子解析等で判明した薬剤感受性に応じた化学療法や放射線治療を併用する集学的治療を行っています。

成人
1)良性腫瘍:聴神経鞘腫、下垂体腫瘍、髄膜腫
2)悪性腫瘍:神経膠腫、神経膠芽腫、転移性脳腫瘍、悪性リンパ腫など

小児
1)良性腫瘍:神経膠腫など
2)悪性腫瘍:神経膠腫、神経膠芽腫、上衣腫、胚細胞腫、髄芽腫など


院内独自のプロトコール、全国多施設共同研究参加など、多方面から研究アプローチを行い、最前・最良の治療を目指して研究を進めています。

間脳下垂体疾患

主に下垂体腺腫・頭蓋咽頭腫などの間脳・下垂体に発生した腫瘍性病変の診断と外科的治療を行っています。

●診断においては3T-MRIを用いた画像診断技術により下垂体病変のより詳細な描出が可能です。当科では、眼科医、内分泌代謝内科医とチームをつくり、精密検査や手術適応について厳格に検討を行っております。

●手術は主に内視鏡下経鼻経蝶形骨洞手術により行っております。内視鏡の導入により低侵襲化のみならず摘出度の格段な向上が得られました。さらなる技術の向上に伴い、鞍上部を主座とする頭蓋咽頭腫や鞍結節部髄膜腫に対しても拡大経蝶形骨洞手術による経鼻的摘出が可能となりました。第三脳室を主座とする腫瘍や鞍上部の大きな腫瘍に対しては各種アプローチによる開頭での腫瘍摘出術が必要となることもあります。術後の機能温存を重視し、術中VEPモニタリングや眼球運動モニタリング下の安全な手術を心がけております。

●多くの間脳・下垂体腫瘍は良性ですが、再発に悩まされることも少なくありません。解剖学的に重要構造物に囲まれる部位ですので放射線治療を含めた複合的な治療が必要となることもあります。放射線治療は主に定位照射(γナイフやサイバーナイフ)による照射を推奨しております。

頭蓋底手術

当科では、聴神経腫瘍や頭蓋底部に発生した髄膜腫などに限らず、手術が困難と考えられる頭蓋底腫瘍に対しても積極的に手術を行ってきました。特に頭蓋顔面にまたがる良性腫瘍や鼻・副鼻腔悪性腫瘍に対しては1984年から耳鼻咽喉科・頭頸部外科、形成外科・顎顔面外科と合同で手術を行っており、この領域では西日本トップクラスの症例数とノウハウを誇ります。
脳腫瘍に限らず、脳深部の動脈瘤などで血管内治療が好ましくない症例などに限っては頭蓋底外科手術手技による直達手術も行っております。

頻用する手術アプローチ

Orbitozygomatic approach
Frontobasal approach (Craniofacial resection)
Lateral suboccipital approach
Transcondylar (fossa) approach
Anterior/posterior transpetrosal approach
Occipital transtentorial approach
Extended endoscopic transsphenoidal approach

病変の局在に応じてこれらの手術アプローチから最適なものを選択します。

頭蓋底髄膜腫

脳深部に発生する髄膜腫は脳幹や神経などの重要構造物を圧迫し、様々な症状を呈するため手術による摘出が必要となる場合が少なくありません。腫瘍の性質によっては周囲の重要な神経や血管を巻き込むことも少なくなく、かつ血流の多い腫瘍ですので止血に難渋することもあり、手術が最も難しい領域の一つです。これらの腫瘍に対しては以下のような手術機器の使用やモニタリングの併用によって、高いレベルでの手術が可能となっております。

①血管内治療班による術前腫瘍栄養血管塞栓術
②VEP, EOG, ABR, NIM(顔面神経、下位脳神経群), MEP, SEPなどリスクに応じて各種術中モニタリングの併用
③High speed drillでの骨削除のみではなく、超音波骨メスを用いた骨削除
④頭蓋底術野の展開では必要に応じて耳鼻科医との協力体制
⑤再建が難しい領域においては形成外科医との協力体制
⑥Navigation system (Brain Lab社), 神経内視鏡, 超音波診断装置, ICGなどを用いた術中形態学的モニタリング

以上のような最新技術を用いて、高い手術技術で摘出度の向上と機能温存を両立させる治療を心がけております。



聴神経腫瘍

聴神経腫瘍は腫瘍周囲に顔面神経を代表とする様々な脳神経が走行しているため、腫瘍の摘出度を高めつつ、神経機能の温存を第一に手術を行う極めて機能的な領域の脳腫瘍手術といえます。特に術後の顔面麻痺は患者さんのQOLを大きく低下させるため必ず温存する必要があります。内耳神経(特に前庭神経)から発生する腫瘍であるため、ある程度の大きさのある腫瘍では多くは術前に聴力が失われていることが少なくありませんが、有効な聴力が存在しても摘出により高い確率で病側の聴力を失うことになります。小さめの腫瘍に対しては聴力温存も企図することはできますが、場合によっては経過観察や定位放射線治療が推奨されます。いずれにせよ脳幹に接する腫瘍(Koos grade III)や脳幹を圧迫する腫瘍(Koos grade IV)に対しては手術を行うのが望ましいと考えます。 この腫瘍に対しても頭蓋底髄膜腫同様に術中モニタリングなどの手術支援を行って手術を行っております。類上皮腫などの小脳橋角部に好発するその他の腫瘍に対しても同様です。

脳幹部腫瘍

脳幹内海綿状血管腫、延髄由来の血管芽腫、脳幹より実質外発育する腫瘍などに対してはNavigation system, 各種術中モニタリング、頭蓋底手術手技を用いた安全な手術を心がけております。

脳血管病変

椎骨動脈や脳底動脈の血栓化動脈瘤、延髄腹側にshunt pointを持つ硬膜動静脈奇形などに対しては血管内治療が困難な場合が多いため、頭蓋底手術手技(特にTranscondylar approach)を用いた手術を行います。

鼻・副鼻腔悪性腫瘍 / 外耳道癌

これらの疾患の担当は主に耳鼻科医になりますが、頭蓋底領域への進行の程度によっては耳鼻科単独での手術は困難となります。当院では1984年からこの領域に対して脳神経外科、耳鼻咽喉科、形成外科3科合同による手術チームを組み、たくさんの手術を手がけてきました。悪性腫瘍ですので根治的な摘出を行うためには必要に応じて片側眼球を含めた頭蓋底構造物との一塊切除が重要であると考えております。そのためには脳神経外科医による頭蓋底術野の展開と切除ラインの作成、また切除後の広範な欠損部分を補填する形成外科医による再建技術が必要です。特にこの領域は国内でもトップクラスであり、西日本圏内から患者さんが集まってきております。手術侵襲は大きくなりますが、長期成績は国際的な手術成績の報告と同等です。

脊椎脊髄疾患

頭蓋頸椎移行部から腰椎・仙椎までの脊椎・脊髄疾患の症例を中心に診療しています。

主な対象疾患

頭蓋頸椎移行部~頸椎 キアリ奇形・頭蓋底陥入症・変形性頸椎症・頸椎ヘルニア・頸椎後縦靭帯骨化症・黄色靭帯石灰化症・脊髄腫瘍など
胸椎 胸椎黄色靭帯石灰化症・圧迫骨折・脊髄腫瘍など
腰仙椎 腰部脊柱管狭窄症・腰椎ヘルニア・腰椎すべり症・圧迫骨折・脊髄腫瘍など

また 脊髄動静脈奇形など血管障害に関しては当科血管内治療グループ・当院放射線科と協力し、診療にあたっています。外傷による脊髄損傷例も当院高度救命救急センターと協力して積極的な治療を行っています。

神経外傷

当院では全国でも有数の高度救命救急センターを有し、重症頭部外傷(及び重症脳卒中)症例に対し集中治療管理を行っています。また10年以上前から導入しているドクターヘリの活用により100 km圏内の重症例を迅速に搬送し、可及的早期の治療を可能としています。重症頭部外傷例には、救急外来における緊急開頭手術、頭蓋内圧モニター管理、低体温療法、脳保護療法、早期ベッドサイドリハビリを行い、治療成績向上を目指して最先端技術の導入と最適な治療の実践に努めています。

小児神経疾患

小児の脳と脊髄は発達段階にあること、成人に比べはるかに小さいこと、先天性の疾患や小児に特に多く見られる疾患があること、などから脳神経外科の中でも“小児脳神経外科学”として一つの専門領域として扱われます。先天性の疾患は環境的な原因や一部遺伝的な原因により発生し、その原因を根本的に治療することは困難ですが現在の神経系の機能を最大限発揮できるように治療を行います。

1) 水頭症

脳脊髄液は主に脳室で産生され一日に500mlにも達すると言われています。この一日の産生量はクモ膜下腔まで流れてゆき一日同じ500mlが吸収されているわけですがこの脳脊髄液の流れに障害が生じたり、吸収能力が低下すると脳脊髄液は産生されるものの行き場が無くなり脳室に貯留します。この過剰に貯留した脳脊髄液は周辺の脳を圧迫して脳圧を上昇させ脳の機能障害、脳の発達障害を引き起こします。
この状態を水頭症と呼び、原因によって以下のように分類されます。


1)先天性水頭症 I. 先天異常に伴うもの a. 中脳水道狭窄・閉塞によるもの
b. 二分脊椎などに伴うもの
II. 胎内での感染によるもの サイトメガロウイルス、トキソプラズマ感染症
2)後天性水頭症 I. 髄膜炎などの炎症後
II.頭蓋内出血・外傷後
III. 脳腫瘍によるもの など

これらの水頭症に対しては、1)以前から行われているシャント手術、2)内視鏡を使った第3脳室底開窓術 (Endoscopic Third Ventriculostomy: ETV)、3)脳腫瘍や脳出血による水頭症はその原因自体の治療、を行います。ETVはシャント手術と違ってどんな患者さんでも可能とは限りませんがうまくいけば体内に異物を入れなくて済むという利点があります。

2)二分脊椎

胎児は受精後18日目から神経管の形成が始まりますがこの神経管は筒が出来上がってゆくようなものをイメージすると分かりやすいと思います。この筒の部分の頭側の部分は更に複雑に折れ曲がり脳となりますが、そのままの形のものが脊髄に相当します。
この筒の部分の一部が完全に合わさらなかったものが二分脊椎で腰椎に最も高い頻度で発生します。皮膚との関係で脊髄自体が皮膚を破って露出しているものは出生後すぐに閉鎖手術が必要ですが、皮膚に包まれている場合は脂肪腫が合併していたり皮膚洞が合併しているかなどで発症時期も異なり、手術の必要性、時期なども異なります。
この二分脊椎の予防法として妊娠初期からの葉酸の投与が推奨されています。

3)キアリ奇形と脊髄空洞症

脳室に脳脊髄液が貯留した水頭症と同じ病態が脊髄に起こったもの(脊髄中心管、または脊髄内に脳脊髄液が貯留したもの)が脊髄空洞症です。
初期には温度感覚や痛覚が障害されますが触覚は障害が少ないという変わった症状(温痛覚解離)が見られ、空洞化が進行すると運動知覚障害が進行します。この脊髄空洞症の原因として多いものがキアリ奇形です。
この奇形は小脳の一部(小脳扁桃)が頭蓋骨側から脊髄側に陥頓したものでMRIが確実な診断法です。脊髄空洞症に対してはこの小脳の陥頓を改善させるかシャント手術を行います。この脊髄空洞症は小児期には脊椎の側湾症の原因となります。学校健診などで側湾症が発見されたら脊髄空洞症のみならずキアリ奇形の有無まで検査をしておく必要があります。

4)クモ膜のう胞

脳脊髄には先天的に形成される良性の“のう胞”がいくつか知られています。もっとも頻度の高いものにクモ膜のう胞があり、内容液も脳脊髄液に近いものですので、小さなもので、増大もなく、脳を圧迫しなければ治療が不要です。しかし時折巨大なものが見つかることがあります。
発達段階の脳にとって圧迫し成長を妨げる可能性がある時や増大し脳圧を上昇させていると判断される場合は手術による治療を行うことがあります。

機能的疾患

機能的脳神経外科は、脳の構造的な異常よりも脳の機能的な異常を解決することを治療の目的とした分野です。難治性てんかん、パーキンソン病などの不随意運動、三叉神経痛や舌咽神経痛などの疼痛疾患、顔面けいれん、脳卒中や脊髄疾患、重症頭部外傷後の痙性麻痺などに対し、手術だけではなく薬物治療や磁気刺激療法など多角的に治療を行っております。いずれの治療にしても効果が得られることが第一ですので治療適応が厳格な領域でもあります。

神経血管減圧術(MVD)

“三叉神経痛”“片側顔面けいれん”“舌咽神経痛”などの疾患に対し神経血管減圧術(microvascular decompression: MVD)が有効であり、手術により80~90%の症例で症状の改善を認めます。
これらの“神経血管圧迫症候群”では、画像所見よりも症状からの診断が重要と考えております。特に顔面痛を来たす病態は多岐にわたるため、手術成績は問診で決まるといっても過言ではありません。一方3T-MRIによる診断技術により術前の責任血管の同定も容易となっており、非典型的な症状の場合でも画像所見から治療効果を推測することもあります。
手術は病側耳介後方の小切開と小開頭により三叉神経や顔面神経の脳幹側(root entry/exit zone: REZ)に到達し、ここを圧迫する血管を可能ならtranspositionしてTeflon feltで錐体骨などに固定します。聴力の温存や顔面麻痺の予防のために術中モニタリングを行います。 三叉神経痛などはカルバマゼピンが著効しますので、基本的に疼痛コントロールの良い期間は薬物治療を優先させます。

てんかん外科

薬物でのコントロールが困難な難治性てんかんに対しては、発作のタイプに応じて様々な外科治療が有効とされています。手術はてんかんの焦点を同定し切除する切除外科手術とてんかん波の伝搬を遮断する遮断外科手術に大別されます。
正確な発作焦点を同定し、切除範囲を決定するために硬膜下電極を挿入し、24時間体制で発作をモニタリングすることもあります。

脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation:DBS)

視床下核、淡蒼球、視床などの脳深部の標的部位に刺激電極を挿入・留置後、胸部の皮下に植え込んだ刺激装置により電気刺激を行う治療です。対象疾患は“パーキンソン病”、“ジストニア”などの不随意運動疾患もしくは“難治性疼痛”です。以前は施設により治療効果が様々でしたが、ここ最近のDBSの研究・開発の進歩により治療適応とその効果が明らかとなってきました。従ってまずは検査入院を行ってDBSの治療効果を予測し、手術リスクや副作用の程度も考慮して適応を決定しております。DBSは退院後もDOPA剤等の内服の調整を行う必要がありますので、定期的に受診していただくことが必要です。

脊髄電気刺激療法(Spanal Cord Stimulation:SCS)

“四肢体幹の疼痛薬物治療が無効な難治性疼痛(神経因性疼痛と慢性的な虚血痛など)”に対して治療適応となります。治療目的は疼痛緩和や血流改善などであり、疾患・症状により期待しうる改善の程度は異なります。この治療のみで疼痛が完全に消失することは少ないため、他の治療法(内服、リハビリ等)を併用する必要があります。従ってこちらも検査入院を行って、検査で効果が期待された症例に局所麻酔下で脊椎硬膜外腔に脊髄刺激用のリードを留置して体外からの試験刺激を行います。試験刺激後、満足しうる刺激効果が見られた場合に電池内蔵型の刺激装置の植え込みを行います。

バクロフェン髄腔内投与(ITB療法)

バクロフェンという薬を脊髄周囲の髄腔内に持続的に投与することにより、痙縮を和らげる治療です。薬液は体内に植え込んだポンプにより調整され注入されます。体内にポンプを植え込む前に治療効果判定のためスクリーニング検査を行う必要があります。植え込み後は定期的に外来で薬液補充が必要です。我が国でのITB療法は2006年4月に保険診療が認証された治療法でありますが、当科では2007年10月よりITB治療を開始しております。
治療適応疾患は“重度の痙性麻痺(頭部外傷後、脊髄損傷後、脳性麻痺など)”です。主に両下肢痙縮に効果的ですが、両上肢・体幹の筋緊張軽減も期待できます。

ボツリヌス療法

我が国では1996年に“眼瞼痙攣”に対し承認され、2000年に“片側顔面痙攣”、2001年に“痙性斜頸”に対しても追加効能として承認されました。更に2009年2月には“2歳以上の小児脳性麻痺患者における下肢痙縮を伴う尖足“に対しても効能が追加され、臨床的にも使用頻度が上昇しています。当科ではこれら全適応疾患での使用実績がありますが、痙性斜頸に対して最も多く使用しております。

経頭蓋磁気刺激法(Transcranial Magnetic Stimulation: TMS)

様々な神経・精神疾患に効果があると報告されていますが、施設によりTMSの刺激条件、刺激効果は異なります。当科では1995年以降、主にパーキンソン病、ジストニアに対してTMSを行っております。最近では慢性難治性疼痛や脳卒中後運動麻痺の改善、統合失調症、うつ病などの精神疾患にも効果があるとの報告もありますが、当科ではこれらの疾患に対しては行っておりません。

神経内視鏡

当科では、2000年初頭より治療・診断デバイスとして神経内視鏡を導入し、神経内視鏡学会技術認定医による手術を行っております。
以下のような様々な場面で神経内視鏡手術は有用と考えております。

神経内視鏡手術のメリット

以前までは脳室内の観察、開窓手技、生検手技などは開頭による侵襲的な手術が必要でした。デバイスの発達により内視鏡の画像解像度や操作手技の向上が得られ、特に脳室内へのアクセス、観察、簡易な手術が可能となりました。皮膚切開は数cmで10円玉程度の穴を開けることで内視鏡を挿入することができます。

水頭症に対して

水頭症に対する治療の一手段として内視鏡手術を用いた手術を行っております。水頭症の原因は多岐にわたりますが、原因の如何によらず以前は脳室-腹腔短絡術(V-P shunt術)が一般的な治療法でした。しかし閉塞性水頭症の要素が強い病態においては内視鏡下第三脳室開窓術が有効です。

嚢胞性疾患に対して

クモ膜嚢胞やコロイド嚢胞など頭蓋内嚢胞性疾患の多くに対して、内視鏡による嚢胞内の観察、嚢胞の開窓手技が可能です。

松果体部腫瘍、脳室内腫瘍に対して

松果体を含め脳室内に発生する腫瘍では、水頭症を呈することが少なくありません。このような腫瘍の中には化学療法、放射線治療が奏功するものが多く見られます。内視鏡を用いた1時間程度の手術で腫瘍の生検と第三脳室開窓を行い水頭症の改善を得ることで侵襲的な手術を避けて治療をすることが可能です。我々は視床に発生した腫瘍に対しても内視鏡下生検術を安全に行っております。

経蝶形骨洞手術において

間脳・下垂体疾患の項でも触れていますが、下垂体腫瘍に対する経蝶形骨洞手術は顕微鏡下手術から内視鏡下手術に取って変わりました。これまで顕微鏡下手術では死角となっていた部分の視認性はもとより直視下での操作が可能となり、摘出度も向上しております。
副鼻腔からトルコ鞍底を超えた範囲を開窓して頭蓋内の腫瘍を摘出する拡大経蝶形骨洞手術も積極的に行っております。

出血性脳卒中に対して

脳内出血、脳室内出血に対する血腫除去手術はこれまで全身麻酔下での開頭血腫除去術もしくは局所麻酔下での定位的血腫除去術が一般的でした。定位的血腫除去術は低侵襲である一方、直視下手技ではないため血腫除去が不充分な場合や、再出血を招く場合がありました。内視鏡を血腫腔内に挿入して血腫を除去することにより、症例によっては局所麻酔下に開頭手術に匹敵する効果が得られています。

各開頭手術での手術支援として

脳動脈瘤のネッククリッピング術では動脈瘤の裏側の視認性には限界があります。クリップがしっかりと動脈瘤にかかっているかどうかの確認、動脈瘤後方に存在する穿通枝などをクリップが障害していないかを確認するのに有効です。また頭蓋底腫瘍の手術など、手術アプローチが深く狭い場合でも顕微鏡単独では死角が多く存在します。内視鏡を用いて腫瘍の取り残しがないかを確認したり、斜視鏡を固定して用いることで顕微鏡下では直視下に摘出できない部分をモニターに映し出しながら摘出することも可能です。

脊髄疾患に対して

症例数はこれからですが、当科では腰椎ヘルニアに対する低侵襲治療として経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア除去手術(Percutaneous endoscopic lumbar discectomy:PELD)の経験も有し、良好な結果を得ております。

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